昨日と今日は散々な日だった。

俺はぐったりと自室のベッドになだれ込んだ。だだっ広い自室は、俺にとってはあまりにも寂しいものだ。

とにかく大変だった。殺人犯の名付け親になるわ、不思議なゴスロリ美少女に出会うわ、滅茶苦茶だ。

 携帯電話のアドレス帳には、ノエルちゃんのアドレスと電話番号が登録されている。

「ああ、今度エラトに携帯買わせなきゃな……」

 じゃないと危なっかしくてならない。

 猛獣には首輪を付けてやらなければ。俺はぼんやりと思った。

 俺はふと大切なことを思い出す。立ち上がり、隣室へと足を運ぶ。


 ただでさえ大きな家だというのに、この部屋は一番大きい。

 ガラスのショーケースの中、何体もの等身大人形が立っている。

 人形? いや……全て本物の人間だ。

 そのいずれも、俺が自殺を請け負った美しい少女達。

 もう5人ほどになるだろうか。

全て医師の兄に頼んで腐らせないように処理してもらった。プラスティネーションした、人形のような少女達。

身体の水分と脂肪分を合成樹脂に置き換え、生きた時と寸分変わらぬ生きた死体を作ることができる技術だ。

一体作るのに二ヶ月は掛かるが、それだけの価値はある。

死んだ親父の莫大な資産を手に入れた俺だったが、使い道は間違ってはいないだろう。

最初はラブドールだけで満足していた。しかしそれはただの性欲の捌け口でしか無かった。

次第に俺の中にもっと別の……恋にも似た感情が芽生えたのだ。

例えば最も美しい時期にある少女を、永遠にそのまま保存出来るとしたら。それはとても素敵なことだと思わないか? 

その妄想は現実となり、俺は口を開かぬ少女達に恋をした。

本物を手に入れたのは高校三年生の時。それから徐々にコレクションは増えた。

それらはシリコン素材やゴム臭い人形等と比べ物にならないほどに美しく、興奮するというよりも俺は彼女らが愛おしかった。

生きている女性では満足出来ない。時を止めている女性にのみ俺は興味がある。息を止めてからも尚その姿を残した少女達のみに。

ただの馬鹿な女の自殺を請け負う気は無かった。このガラスケースの中に居る彼女らの全てが、賢いが故に精神を病んでいたのだった。

かつて重厚な精神を宿していた魂の柩は、白や桃色のドレスを纏い輝き続けている。

生前に持っていたその精神は、死して尚その表情に表れるものなのだと俺は実感する。

例えばキャンパスに黒を塗るにしてもただ黒を塗るのではなく、その下に紫や緑を挿しただけでその深さは違うのだ。

それと同じで、薄っぺらい紙切れのような少女ではこれらの風格は出せないだろう。

そして俺はこのような少女達しか愛せない。


 俺はガラスをそっと撫でてみる。

「ノエルちゃんもここに加えたかったけど……まあ、いいや。無理強いは良くない」

残念だったが、もう別段興味はそそられない。何故なら、俺は新しい少女を手に入れたばかりなのだから。

彼女は恐らく、この中で最も穢れなく純潔な少女だろう。

ガラスの向こう側で、沢田 蜜柑の死体は、時を止めたように美しく凝固していた。



END

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